さすがに公園の桜をむしるわけにはいかないので証明することもできず、可憐な花をぽーっと見つめる。
その食欲を打ち消すように、里葎子さんがパンッと手を叩いた。

「同級生っていえば! 声かけた人いたんだけど、残業らしくって来られるかわからないって言ってたの。ごめんね」

「全然構いませんよ、私は」

誰か呼ぼうか? という申し出は断ったはずだけど、里葎子さんには伝わっていなかったのか。
お腹も満たされ、早く帰って寝たいだけの私に、これからお見合いに臨むような気力はない。

「もっと残念がってくれてもよかったのに」

「正直なところ、面倒臭いです。もう寝たい」

里葎子さんの膝の上でとろとろまどろむ咲月ちゃんを見ていると、こちらのまぶたも重くなってきた。
本来ならこの観桜会こそ出会いの場であるはずなのに、恋の予感も春の宵には眠気優先。

「美夏ちゃんって恋愛はお休み中?」

「恋はしたいですけど、『彼氏が欲しい』っていうのとはちょっと違うんですよね」

誰かを紹介してもらって、その人と連絡を取り合って会う。
そんな業務と変わらないやり取りの中に、私の求める〈恋〉があるようには思えない。
そんな疲れる関係を抱えるならば、退屈な毎日でものんびり過ごす今のままがいい。
恋はしたい。
ドキドキときめくような。
だけど、それがどんなものだったのか、思い出せなくなっている。

「紹介されたからって必ず付き合わなきゃいけないわけじゃないし、ひとつの出会いの形だと思うんだけど」

自身も先輩の紹介で旦那さまと知り合った里葎子さんからしたら、私なんて尻込みしてるようにしか見えないのだろう。
だけど紹介とは言え、旦那さまの方が友人に頼み込んで、太陽のたまごパフェを三回奢る約束で里葎子さんを紹介してもらったというのだから、今の私とでは状況が違う。

「特に美夏ちゃんは見る目なさそうだから心配」

「……そうですね」

浮気症の元カレに振り回された日々を蒸し返されたくなくて、新しい瓶を片手に立ち上がる。
折よく課長の日本酒が少なくなっていた。
気を取られることばかりで見上げる桜には、やはり『忍耐』の二文字がよく似合う。