そうして、もう少しもう少しと時間を延長するように頑張ったのだけど、やっぱり終わってしまうのだ。
閉店時間に追われてカフェを出て、アパートの前で車から降りると、もうできることはない。

あとは別れるだけの空気が漂ってお互い顔を見合わせた。
けれど、どちらも口を開かなかった。
お茶でもと誘うべきかと考えて、本当はそうしたかったのに、車は敷地内とは言え駐車スペースではないところに停めているので、このままにしてはおけない。

「今日は本当にありがとうございました」

「こちらこそお弁当ありがとうございました。ゆっくり休んでくださいね」

「えーっと、……今日はありがとうございました」

「それ、今言った」

「ですよね。……マフラー、洗ったら連絡しますから」

「それも言いましたよ」

「……ですよね」

「連絡しますから」

「はい。……楽しかったです」

「俺もです」

「えーっと……」

「ミナツさん。きりがないから、ミナツさんが先に帰って」

「……はい。では、おやすみなさい」

「おやすみなさい」

重い足を剥がすようにその場を離れ、そこからは急いでベランダに出ると、小川さんは笑顔で手を振り車に乗った。
去っていくテールランプが、角を曲がって見えなくなる。

「伝わったかなー」

私なりに精一杯気持ちを表したつもりだけど、小川さんがどう思ったのかわからない。
満足とはほど遠いさみしさが胸に広がる。
結局一日借りたままのマフラーが、夜風とさみしい気持ちの両方から私を守るようにあたたかかった。