車に戻るなり、小川さんは暖房を全開にする。
風が冷たいから寒いけれど、日差しはあたたかいので、車内に入るだけで全然違った。
ピクニック気分でお弁当持って行きますって言ったのに、とてもそんな気温ではなかった。
「すみません。考えが足りませんでした」
「いえ、実際この辺りで食べるところはほとんどないので。コンビニで買うか、市街まで戻るしかないですから。助かります」
「でも……食べる場所が……」
「食べにくいですけど、車の中で食べませんか? ここなら紅葉も見られるし」
後部座席に移動して、できる限りお弁当を広げた。
と言っても、全部並べることは不可能で、タッパーは重ねたまま。
「おにぎりは鮭と焼きたらこと梅干しです。こっちに卵焼きとからあげ。下の方にベーコン巻きときんぴらとエビチリが入ってますから。無理のない程度に食べてください!」
紙皿と箸を持ったまま、小川さんはいたただきますと手を合わせた。
からあげを口に放り込んだタイミングですかさず続ける。
「感想とか言わなくていいですから! あと、本当に無理せず、静かにそっとお箸を置いてくださって結構ですので!」
「おいしいです」
「だから感想いらないですって!」
「どうして?」
「けなされたら辛いし、誉められても『本当かなー? 余計に気を使わせたかなー?』って悩むことになるので」
「悩まなくていいです。本当においしいですよ。このきんぴらも。ごま油好きなので」
自分でもわかってる。
食べられないものじゃない。
だけど、特別においしくて感動させられるほどのクオリティでもない。
小川さんはきっとおいしいって言ってくれるし、食べてくれるって思ってたから、だから申し訳ない気持ちになるのだ。



