強い風に負けることなく、撫でるような陽光が山肌を包む。
晴れ晴れとした小川さんの笑顔も、その中にあった。

「今日もすごくいいけど、夕陽に染まる紅葉はもっと幻想的だそうです」

「見たいです」

日はようやく頂点を折り返したところで、夕暮れまでここにはいられない。

「絶対に、見たいです」

切実に願う。
この人と一緒に夕映えの紅葉が見たい。
そして、その日はずっとずっと未来ならいい。
小川さんもゆっくりと頷いた。

「今日は無理なので、また、来年にしましょう」

来年までに、生涯かけても見られないような絶景を探そう。
それで、それを見る約束をしよう。
約束が果たされるまで、一緒にいてって。

上も下もあちこち見ながら歩いたつもりだけど、結局ハート型の葉っぱは見つからなかった。

「カツラでしたっけ? この辺にあるんですか?」

「どこかにはあるかもしれませんが、見つかりそうもないですね」

落ちている葉は、どれもハート型とはほど遠い。
その中の一枚を拾いあげる。

「これなんてリーフパイにそっくり」

「あはは! それは多分ナラですね。ブナ、ナラ、カエデ、あとダケカンバが主流らしいので」

「じゃあ、あの葉っぱはどこから?」

小川さんは内緒話でもするように声をひそめた。

「配達の途中で見つけて、一枚いただいたんです。あれがカツラだっていうのは、」

「庭仕事好きの旦那さまに聞いたんですね?」

「……はい」

あの一枚を大事に拾ってポケットに入れたのだろう。
そのあとも赤く紅葉したカツラを、あちこち探してくれたに違いない。

「赤いハートの葉っぱも絶対見たいです。だけど、今日は諦めますから、だから、」

声に出さなかった続きの言葉に、小川さんは笑顔でうなずいてくれた。

「また来ましょう。一緒に」