桜同様、紅葉の時期も毎年二週間程度は前後する。
今年は例年より少し早めで、10月中旬と言えど、もう終わりが近いらしい。
「一番見頃だから、混んでるかもなー」
全国的に有名な名所でなくても、絶景を求めて人は集まる。
山道に入ると車の数は減ったけれど、目的地が一緒と思われる数台が、ずっと同じルートを走っていた。
「この辺もきれい」
常緑樹なのかまだ紅葉していないのか、緑色と橙色がまだらに混ざった道が続く。
不思議なもので、常緑樹も夏の強い色とは異なり、赤や黄色と馴染むような落ち着いた色に変わっているように思えた。
「もう少し先は全部紅葉してますよ」
小川さんの言葉通り、徐々に緑は減って、明るく鮮やかな世界に変わっていく。
「わあ! すごい!」
左右から道路に覆い被さるような木々は、ほとんどアーチのよう。
赤、黄色、橙色と、きれいなグラデーションで溶け合い、木の幹さえやわらかな色でひとつの世界を作っている。
風でだいぶ葉を落としたのか、地面にも同じように鮮やかな色が広がり、隙間の多くなった枝葉から、明るい木漏れ日がきらめきを添える。
「この辺はブナらしいですよ」
「本当に、詳しいんですね」
「実をいうとカンニングです。あの庭の手入れ好きの旦那さんに教えてもらいました。今日行くところも、近場では一番のおすすめだそうです」
「それ、言わなきゃいいのに」
「心苦しくて」
気まずそうに表情を曇らせる小川さんがやっぱり好きだなーと思って、私は声を立てて笑った。



