10月は比較的晴れる日が多い。
下旬になるともう紅葉は終わってしまうので、中旬の日曜日に約束をしていた。
慣れた様子で敷地に入ってくる黒い車を窓から確認して、私は保温バッグを持って部屋を出た。

「おはよう、ございますっ」

重さに引きずられるように一段一段階段を降りていると、小川さんは慌てて駆け寄りバッグを奪った。

「部屋で待っていてくれたらよかったのに」

「そんな、アパートの階段降りるだけなのに申し訳ないですよ」

「その階段から落ちたら、今年の紅葉は見られなくなりますよ」

今日のために買った大きな水筒もまとめて軽々と運び、後部座席につける。

「こんなにたくさん……大変だったでしょう? ありがとうございます」

「いえ! 量がわからなくて作り過ぎちゃっただけなんです!」

里葎子さんのアドバイス通り、「もしお嫌でなければお弁当を作りますけど、苦手なものやアレルギーはありますか?」と確認した。
「人数はふたりですか?」とは聞けなかった。
もし小川さんがデートのつもりなら、あまりに無粋な気がして。
大事な時間に傷が入るような気がして。
だから、お弁当はかなり多めに作ったけど、他に人は乗っていない。

当然小川さんから人数に関する話はなく、「ありがとうございます。申し訳ないのですが、ナスとパクチーは苦手です。でも食べられなくはないです。アレルギーはありません」という返答が返ってきた。