わざわざ探してくれるのだから、もっと喜ぶべきなのに。
だんだん贅沢になっている私は落胆して、それを悟られないように声だけ殊更明るく言った。

「もう、秋なんですね。早いなー」

『秋は短いから、すぐ冬になりますね』

「早いなー」

『早いですね』

「冬は寒いから嫌なんです」

『ミナツさんはやっぱり夏が好きなんですか?』

「夏は暑いから嫌いです」

『あははははは!でも、夏に木陰で仕事サボるのは格別ですよ』

「冬に昼間から甘酒飲んで酔っ払うのも格別です」

『ミナツさん、昼間から酔っ払ったりするんですね』

「誰の迷惑にもならない悪事による背徳感は、オトナのたしなみですよ」

『たしなみですか?』

「それを上回るパフォーマンスをすればいいんです」

『上回るパフォーマンス、ミナツさんはしてるんですね』

「酔っ払ったら寝ちゃいます」

電気の無駄遣いだと叱られそうな、内容のない話ばかりした。

『停電しなくて本当によかった』

「ペンライトしか持ってないって言ったら、先輩に会社の懐中電灯持たされました」

『いい先輩ですね』

「ところが電池切れてて」

『替えの電池ないんですか?』

「単2なんですよ、これ」

『単2は……うちにもないですね』

「古いタイプで重かったのに」

いつまでも続けられそうだったけど、小川さんが電話代を気にしたので、終わらなければならなくなった。

「おやすみなさい」

『おやすみなさい』

「…………………」

『…………………もしもし?』

「はい?」

『ミナツさんが切ってくれないと』

「あ、そうですよね。すみません……じゃあ」

『はい』

雨は止んでいたけれど、気温は低く肌寒かった。
エアコンをつけようか迷ったまま、ベッドにゴロンと寝転ぶ。
頬にあてた携帯があたたかい夜だった。


数日後、確かにポストにはタオルが入っていた。
同じビニール袋の中には、緑色のハート型の葉っぱと、期間限定マロン味チョコレートも一緒に。
そして、ポスト型のふせんメモ。

『タオルありがとうございました。
紅葉はもう少し先のようで、約束の葉っぱは見つけられませんでした。
だから、シーズンに入ってから山に探しに行きませんか?
よかったらお連れします。

小川』