「お仕事、忙しかったんですか?」
唐突に問われた意味が、わからなかった。
「仕事、ですか?」
「はい」
「仕事は普通です。嫌なことも大変なこともあるけど、平均的な範囲内だし」
「そうですか」
意図を探ろうにも暗くて、淡々とした声色からも何も読み取れない。
「あの……?」
私の戸惑いは伝わったようで、小川さんはなんとなく言いにくそうに言葉を発した。
「ミナツさんがどうしているのかわからなかったので、忙しいのかなって。前の電話も、急いでたみたいだったし」
「ああ、あれは……」
緊張して、何を話したらいいのかわからなくて、だけど小川さんから切られてしまうのが怖くてさっさと切ったのだと、包み隠さず話す勇気が出ず、食べ終えたお団子の串をぶらぶらと揺らした。
「あれは……用事が済んでしまったから……」
「用事か……。用事……」
小川さんはちょっと考え込むような間をおいてから、独り言のようにポツリと言った。
「用事なんて、ないもんな」
続いてお団子を咀嚼している気配がして、会話は止まってしまう。
どこを見ても似たような闇なのに、自然とスニーカーの爪先に視線は落ちた。