「あ、今日違う人だ……」

必要のない居留守を守り通した私は、ものすごくがっかりしてしまい、急に喉の渇きを覚えた。
ウーロン茶を片手に堂々と眺める窓の外には、濃い青空が広がるばかり。

小川さんは、たいてい一日に2回このアパートにやってくる。
私宛の郵便物はなくても、一階に家族用4世帯、二階に単身用6世帯、合計10世帯入居していれば、誰かしらに郵便物はあるものらしい。
もちろん、小川さんにだってお休みの日はあるのだけど、まさか違う人だなんて思わずにドキドキ待っていた。

これは非常に困りもので、好きな人が自分の家に来るなら無視できない。
だけどいい大人がこんな無様なことをしているなんて、誰にも知られたくない秘密だった。
いっそ車で二時間の実家に帰省すればよかったのだけど、来月大きな法事をするからお盆は帰って来なくていいと言われていた。

「会いたいなー。会いたいよねー? 小川さん、今日は何してるんだと思う?」

ベンジャミンは何て答えているのか、私の愛撫にきゃははと身をよじる。

こじらせにこじらせた恋心は、夏の暑さで傷んでいたのか、翌日それは私自身も思いがけない形で爆発した。