人の波が強くなり、立ち止まっているだけで邪魔になっていた。
名残惜しさを理性が押さえつけ、握っていた手をゆっくりゆっくりほどく。

「危ないから、もう行って」

小川さんに背中を押されて、振り返り振り返り戻るけれど、三度目に振り返ったときには、もうその姿が見えなくなっていた。

「美夏ちゃん! よかったー。何回も電話したんだよ!」

言われた通り、携帯には里葎子さんの名前が連なっていた。

「人混みに巻き込まれちゃって。本当にすみません」

「お茶買いに行ったんじゃなかったっけ?」

「あ……すみません。買いそびれました」

「美夏ちゃんってときどきボロッと抜けるよねー」

「しっかりしてそうに見えるけどなー」

「段差は大丈夫なのに、何にもないところで躓くタイプなの」

やさしい人たちに甘えて、私はすべてを笑って聞き流した。
会話が全然頭に入ってこない。
見ているものさえ理解できない。
私の内側はすべて、青空に支配されていた。