「里葎子さん、変じゃないですか? 髪ほつれてないですか?」

「ちゃんと着付けられたと思うけど。そんなに私って信用ない?」

「里葎子さんの着付けは信用してます! でも……着崩れてないか心配で」

「美夏ちゃん、10分ごとに鏡見るつもり?」

旦那さまとその友人の立石さん夫妻が場所を取っていてくれたので、私と里葎子さん、咲月ちゃん、お隣に住む初音さんの四人は後から合流することになっていた。
夕食は軽く済ませて、下駄をからころ言わせながらのんびり歩く。
普段どこにこんなに人がいるのか、というほどたくさんの人が会場である海岸沿いに集まって行く。
日が落ちて多少気温は落ち着いたけれど、人いきれで肌がベタついていた。


「わー! やっぱり浴衣いいなー。来年は着られるかなー」

立石さんの奥さんは妊娠中で、ふわっとしたワンピースを着ていた。
だから一見するとよくわからないのだけど、撫でたお腹は確かにぽっこりと大きい。

「来年はどうかなー?子どもできると動きにくい格好は難しいから。母乳だと授乳しやすさが第一だし」

答える里葎子さんもデニムにカットソー。
ここに来るまでにも咲月ちゃんを抱っこしたり追いかけたりしていたから、確かに浴衣は難しいかもしれない。

「そういうものなんだねー。おふたりは今のうちに浴衣楽しんで!」

私より少し若い初音さんは白地に赤い金魚と水の波紋がかわいらしく、咲月ちゃんもピンクの花柄の甚平がよく似合っている。
里葎子さんに借りた薄紫色に朝顔とうちわの絵柄の浴衣はとても素敵だけど、やはりこれは里葎子さんのもの。
私には似合っていなかった。

花火大会は夜7時から2時間ほど続く。
ニュースになるような大きな花火大会とは違って、数発打ち上げては少し休む、を繰り返しながらゆっくりゆっくり進む。
ひとつひとつを噛み締めるように見るのだ。

里葎子さんの旦那様と立石さんが、焼きそばとフランクフルトを、また初音さんがかき氷買ってきてくれて、狭いレジャーシートに並べられた。
私も買ったビールや缶チューハイ、ジュースを配る。