カレンダーの関係で今週の土日からそのままお盆休みに入る。
だから夏休みの有給を半日使って、定時より二時間早く帰ることにした。

職場を出ると、すでにチラホラ浴衣姿の女の子たちが通りを歩いていた。
自分もあの中に加わるのかと思うと、高揚感が爪先を踊らせる。

嬉しい日には嬉しいことが重なるのか、バスを降りて少し歩くと、歩道の少し前に郵便バイクが停まっていた。
まとめて持った郵便物を2~3軒のポストに入れ、走って戻ってから少しだけバイクを前に進める。
また郵便物を持ってバイクを離れたので、バイクの隣で帰りを待った。

「こんにちは」

やはり走って戻ってきた彼は、私を見て笑顔を浮かべた。

「あ、ミナツさん!」

前に会ったときより腕も顔も黒く日焼けしている。
こめかみを流れる汗を、取り出したタオルでぐいっと拭った。

「今日は仕事終わるの早いんですね」

「花火見に行く約束してて、ちょっとだけ早めの夏休みです」

「花火かー、いいなー」

「…………行きます? 一緒に」

瞬間的に、ものすごく勇気を出して、あくまでさりげなさを装って言った。
さりげなさを装った手前、動揺や緊張を悟られるわけにいかず、必死で視線を逸らさずに返事を待つ。

「ありがとうございます。行きたい気持ちはありますけど、残業があって」

平静を装ったままの内側で、うれしく膨らんでいた気持ちが一瞬でしぼみ、ずしっと胃の底に溜まる。
だけどそれだって気づかれるわけにいかないので、作った笑顔が崩れないように、顔に力を入れ続けた。

「お忙しいのに気軽に誘ってすみませんでした」

「いえ! こちらこそすみません。せっかく誘ってもらったのに。早く終わったら、ちょっと覗いてみようかな。約束はできませんけど」

「無理しないでください」

「無理なんてしてません」

つい拗ねた声が出た私に、彼も少し強い口調で返す。
けれどすぐに空気をふわっと緩ませた。

「ミナツさんはゆっくり楽しんできてくださいね」

バイクが、絡み付くような熱を撒き散らして去っていく。
本当に残業かもしれないし、断る口実かもしれない。
真実を知るすべはなく、彼の残した「ちょっと覗いてみようかな」という言葉に含まれた希望を、消し去れなかった。