私にとって、エイプリルフールの嘘は年中行事。
友チョコを配る感覚で、里葎子さんにもどうでもいい嘘を送っている。
必要のないやり取りこそコミュニケーションだと思っているのだ。
簡単に嘘とわかる嘘は意外と難しく、ツチノコは重宝しているのだけど、私自身よく知らない。
あれってヘビなの?トカゲなの?とうろ覚えの知識を確認することなく、イメージだけでアジの干物を利用した。

「春にはやっぱりわくわく感が欲しいじゃないですか」

「ツチノコじゃわくわくしないな」

「じゃあ、何ならわくわくしますか?座敷わらしとか?カッパ?」

「……ドラゴンかな」

「ドラゴン!……いつだったか冷凍のワニ肉なら見たことあります。それでもいいかなー」

「エイプリルフールって食べる行事じゃない気がするんだけど?」


仕事も変わらず前年度の続きで、席の配置も変わらない。
本当にいつもと同じ月曜日なのに、心のどこかで何かを期待する気持ちが疼く。
変化がないのは穏やかで嬉しいけれど、一年後、また同じ気持ちで同じ景色を見ているのかと思うと、新年度には似つかわしくないくたびれた心境になった。

パソコンが立ち上がるまでの数秒、頬杖をついて窓の外に目を向ける。
風の届かない室内から見る空は、春のうららかさと舞い上がる埃を湛えて微笑んでいた。