近所で開催される花火大会は、毎年8月10日と決まっていて今年は金曜日にあたる。
今週は土日まで晴れる予定だから、延期になることもないだろう。

「うちの旦那と咲月と一緒に行くんだけど、美夏ちゃんもどうかなって」

「え……家族水入らずにお邪魔していいんですか?」

「水入らずじゃないの。旦那の友達とか、隣に住む女の子も一緒。だから行かない?」

さっき近づいた距離を、ふたたびしっかりと空ける。

「……男性の紹介ならいらないですよ」

「ちがう、ちがう! 立石さんは奥さん連れだし、初音ちゃんは彼氏持ちだから」

「なーんだ。じゃあ行きます! 花火、久しぶりだなー」

学生時代は友達と行ったけど、就職してからは一度もない。
そして花火は、さすがにひとりで見に行くのは躊躇われた。

「美夏ちゃんは浴衣持ってる?」

「実家に置きっぱなしなんです。普通の服でもいいですか? 自分じゃ着られないし」

母に何度教わっても、めったに着ないから忘れてしまう。
ひとり暮らしの狭いクローゼットでは管理も難しく、結局実家に眠らせてあった。

「じゃあ、私の貸してあげる。着付けもしてあげるから。それで一緒に行こう」

「それだと遅くなりませんか?」

「もちろん、早退するのよ」