日曜日は急ぎの郵便だけの配達だけど、土曜日は全種類の郵便が配達されているらしい。
そんなことも、今まで意識して来なかった。

いくら「ポストにかけておいて」と言われても、できるだけ直接返したいと思って、私はそわそわしながら土曜日を過ごした。
タオルは丁寧に手洗いして、それからちょっと高めのドリップコーヒーも用意した。
季節限定のものと、人気のものと、好みがわからないから数種類詰め合わせて。
迷惑にならないようにいろいろ考えたのだけど、こうして並べてみるとまるで香典返しのように見える。

タオル、ちゃんと洗えたかな。
コーヒー苦手だったら嫌だな。

差し出された厚意の半分も返せそうになくて、自分のセンスのなさが呪わしい。

ブオオオオオ、という音がしたので、慌てて窓に駆け寄ると、案の定、郵便バイクの音だった。
紙袋を抱えて部屋を飛び出し、エントランスに出ると、ちょうど各部屋のポストに郵便物を入れているところだった。
しかしその背中は、期待したものより線が細い。

あれ……? 今日はあの人じゃない。

バタバタという足音で、私の存在には気づいているだろうに、華奢なその人は存在ごと無視して仕事を続けている。
突っ立っているのも恥ずかしくなり、「お疲れさまです」と声を掛けて、自分のポストから郵便物を受け取った。
見知らぬ配達員さんは、無表情のまま会釈だけして、小走りでバイクへと戻って行く。

郵便配達は毎日ある。
だから担当がひとりだけのはずはなかった。
そのうち必ず彼は来るのだから、言われた通りにポストに掛けておけばいい。
それなのに、どうしようもなく気持ちが落ち込んで、行こうと思っていたカフェにも行かずにダラダラとした週末を過ごしてしまった。


『気を使わせてしまい、申し訳ありませんでした。
コーヒーはおいしくいただきました。
ありがとうございました。』

月曜日に置いておいた紙袋はなくなっていて、翌火曜日にそんなメモがポストに入っていた。
少し子どもっぽいけれど、おおらかでやわらかい文字が、ポスト型の付箋メモいっぱいに踊っている。
本心とも社交辞令とも取れる文面から悪い印象は感じなかった。

なんとなく捨てられず、冷蔵庫に貼って眺めていたら、背後のテレビから天気情報を伝える声が聞こえてきた。
関東地方で梅雨明けが宣言されたらしい。
テレビに映るビル街は濃い青空と太陽光に彩られている。
その映像に、メモに添えられていたであろう笑顔が重なって見えた。

まもなく、梅雨が明ける。