部屋に戻ってからなんとなく窓の外を見ると、彼はお腹に付けたバッグに何かをしまっていた。
思い出してベランダに飛び出し、走り出そうとする彼に大きな声をかけた。

「排水溝ー! きれいでした! ありがとうございましたー!」

彼は止まって笑顔で手を振ってから、慣れた様子で重そうなバイクを回転させて走り去っていった。
モグラ避けに植えられた水仙が、その風に薄黄色の花を揺らす。

祝日に仕事している人がたくさんいるという、当たり前の事実に、今初めて気づいたような気がしていた。
そういう人がいないと困る。
毎日当たり前のように受け取っていた郵便物だって、誰かが運んでくれている。

いつの間にか、空の半分を覆っていた雲がはるか遠くに流されて、家々の窓ガラスにお日さまの光がきらり、きらり、と反射していた。
風はやはり冷たいけれど、さっきよりやさしくカーテンと髪の毛とベンジャミンの葉を撫でる。
部屋の中の澱んだ空気がどんどん浄化されていくよう。

「うーーーん! いい気持ち!」

雪解け直後は埃で汚れていたこの街でも、五月は新芽の萌え出る季節。
暑くもなく寒くもなく。
嫌いな上司は隣の課だし、生活はしていけてるし、とりあえず健康。
祝日には誰に気兼ねすることなく、ゆっくり休んでいられる。

今もし、幸せか? って聞かれたら、幸せですって言えるかもしれない。