「去年、突然木村さんからこのメッセージもらって、その日アジの干物食べた」

「………………」

「『よかったらツチノコの後輩紹介するよ』って花見に誘われたんだけど、残業で間に合わなくて」

「………………」

「ずいぶんご縁がありますね? ツチノコの美夏ちゃん」

笑った顔には、あの夜見たものと同じえくぼが浮かんでいる。
去年、いらないです、興味ないです、と拒絶していたのは、この笑顔だったらしい。

「相手が晴太だったなら、里葎子さんに紹介してもらえばよかったーー!!」

過ごした時間はどれも愛しいけれど、人生に限りがあるのなら、一秒でも早く出会いたかった。
きっと、どんな形で出会っても、私はこの人を好きになったのに。
ごめんなさい、里葎子さん。
あなたの言うとおり、出会いの形にこだわるべきではなかったです。

「木村さんに『美夏ちゃんを弄んで捨てようとした挙げ句、バレンタインに泣かせたクズ男はあんたか!』って言われた」

「誤解です……」

「『私の頭越しにかわいい後輩に手を出したんだから、相応の覚悟はあるんでしょうね』って」

「うちの先輩がすみません……」

「だから『あります』って言っておいた」

「…………本当に?」

「さあ? 今日はエイプリルフールだからな」

カッパ巻きに手を伸ばす晴太の膝の上に乗って、シャツの胸元をきゅうっと握った。

「嘘だったら泣く」

「それは困る」

困るって言うくせに、晴太のえくぼが深みを増した。

いつだって、予感なんてない。

「……キスも、カッパの味だね、小川君」

「カッパ食べたからね、美夏ちゃん」

恋は嘘みたいな幸せをはらんで、

「来年は宇宙人にして」

「え……宇宙人? なんだろ? クラゲの炒め物とかかなー?」

私のとなりに、いつもある。






end