見つめ合ったまま絶叫する私を見て、晴太がはっきりと不安な表情になったので、携帯をそのまま渡した。

「職場の先輩の水田里葎子さん。晴太と同級生なんだって」

「……もしもし?」

受け取った晴太は出自の怪しい漢方でも飲むように恐る恐る携帯に話し掛ける。

「━━━━━ああ、木村さんか。その節はどうも」

ホッとした晴太の顔を見ながら、里葎子さんの旧姓は『木村』なんだな、とポイントのずれた感想が頭に浮かぶ。

「━━━━━え? ああ、そうそう。━━━━━はあ、まあ、いろいろあって……
 ━━━━━へ? そうなの? ━━━━━いや━━━━━そんなことはないよ。━━━━━大丈夫。━━━━━はい。それはもちろん……あります。━━━━━はい。━━━━━がんばります……」

徐々に力なく、またかしこまっていく晴太の耳元では、里葎子さんのけんけんという強い口調が感じられる。
けれど、内容はわからない。
戻ってきた電話は、すでに通話が切れていた。

「なんか、娘さんが泣いたからって切られたよ」

「忙しいのに悪いことしちゃったね」

珍しく私の言葉を素通りして、晴太は自分の携帯を熱心に操作しながら口元を綻ばせる。

「そういえば、食べたなー、ツチノコ」

「………は? ツチノコ?」

自分のカッパ発言を棚に上げ、この人正気か? と疑いの眼差しを向けた。
そんな私に晴太は『ツチノコ』画像を突き付ける。

「ほら、これ覚えてる?」

晴太が差し出した携帯にあったのは、発信者『里葎子』で送られている至極どうでもいいメッセージ。
『今日の夕食はツチノコでーす!』
少し下の方にはアジの干物の写真もある。
そのアジがのってる白い長方形の角皿には、右下にピンクのお花がひとつだけついていた。
とても見覚えがある。
なにしろ、今現在そのお皿にはカッパ巻きが並べられているのだから。