ひと月後。
つぶれたブーケがポストに入っていた。
小ぶりに作られたブーケでもポストの隙間を通るわけなく、無残な姿で落ちていた。

「あーあ」

クリーニング店の割引ハガキをちりとり代わりにして、ポスト内に散らばった花びらを集める。
ポストに入れるとき、予想より入らなくて晴太はきっと焦っただろう。
平たくしおれたブーケは、そのまま彼の姿を表したようだった。
肩を落として、いつもより弱々しくバイクを走らせる背中を想い、笑いとあたたかな気持ちが込み上げる。

ふと見ると、ブーケには広告から切り抜いたらしい男性アイドルグループの切り抜きが貼ってあった。
丁寧ながらゆがみのある切り口は、あきらかに人の手、晴太の手によるものだろう。

「……は?」

私に向かってとろけるような笑顔を向ける男性たち。
立ち尽くしたまましばらく考えてもまったく理由がわからず、夜やってきた本人に直接確認した。

「どうして? って。だって美夏、好きなんでしょ? この前食い入るように見入ってたから、好きなんだなーって思ったんだけど」

そういえば、晴太に雲のクッキー型を指摘されたとき、観ていたテレビで彼らが歌っていたような……。
ショックで呆然とする私を、晴太はアイドルに見入っていると勘違いしたらしい。

「あはははははは!」

私が晴太仕様のガトーショコラを作ったように、彼は彼なりに私の好きなものをプラスしようとしたのだ。
それがとんでもない間違いだっただけで。

「ありがとう! すっごくうれしい!」

そのうち誤解は解くとしても、今日だけはこのアイドルのファンということにしよう。
サプライズに軽く失敗して落ち込むこの人に追い討ちをかけたくないから。

「ブーケつぶしちゃったから、好きなものなんでもごちそうする! ごめん!」

「じゃあねー、龍華苑の麻婆担々麺!」

「美夏、辛くて食べられないじゃない」

「味は好きなの! でも全部は無理だから、ちょっとだけ食べたい。残りは食べてくれるでしょ?」


あなたが愛しい。
あなたを好きだともがく、私も愛しい。