【さくら】



「オレ桜好きなんだよね」

 片想い中のあの人の声が聞こえて、弾けたように顔を上げた。


 このときほど、自分の名前が「さくら」で良かったと思ったことはない。と同時に、あの人に好きと言ってもらえる桜に、ひどく嫉妬した。



 見上げた先の桜は、目が眩むほど美しかった。




(了)