柿崎の話はこうだった。
単純に嫉妬心から盗んでしまったらしい。
というのも菜摘は人当たりが良く誰からも好かれるようなタイプだった。
それでいてデザインのセンスも良い。
柿崎もそんな菜摘に心惹かれた一人だった。
しかし菜摘の隣にいると劣等感に苛まれるそうだ。

脚光を浴びるのはいつも菜摘。
人としても菜摘のように活発で明るく振る舞えないお高くとまってしまう自分に嫌気が差していた。

そして柿崎はショー用に提出した自分のデザイン画が見事落選した。

更にトドメとなったのが柿崎が好きだった男の子と菜摘が付き合い始めたという噂を耳にしたのだった。
ずっと菜摘に相談していたのに突然の裏切りに、積もり積もった嫉妬心が一気に爆発したんだとか。

『気がついたら盗んでました。いつもの笑顔を無くしてやりたい、その時はそう思って』

柿崎はうつ向きながら話していた。

『でもまさか本当にあの笑顔が見れなくなるなんて……』
『柿崎さんは菜摘さんの失踪とは関係ないんですか?』
『分かりません』
『どういうことだ?』
『私が衣装を盗んだのが菜摘の失踪の原因だったら……』
『つまり柿崎さんは盗んだだけでその後は何もしていないということですか?』
『はい……』
『最後に菜摘に会ったのは?』
『たぶん8月の半ばに一緒に買い物に行ったのが最後だと思います。盗む前に…』

俺たちは顔を見合わせた。
柿崎は嘘をついているようには見えない。
どうやら柿崎は失踪には無関係で間違い無さそうだった。
これでもし柿崎が失踪に関与していたら人間不振になる自信がある。