8月18日土曜日午後15時―――菜摘失踪まで残り3日―――
雰囲気のあるアンティーク調の喫茶店で柿崎里沙と待ち合わせをしている。
柿崎の最寄駅で館林が指定した店らしい。

少し早めに合流して奥のテーブルに座ってコーヒーを飲んでいる。

『柿崎が犯人だったら嫌だな』
『話を聞いてみないことには分からないですよ』

今日は森も来てくれていた。
あれこれ話していると女性が一人で店内に入ってきた。
直接会ったことはなかったが年頃的にもおそらくあれが柿崎だろう。

柿崎らしき女性は店内を見回すと三人組の客は俺らしかいなかったので迷わずこちらに向かって歩いてくる。
やはり正解のようだ。

『あの、館林さんですか?』
『ああ、柿崎さん?ご足労頂いてすいませんね』
『いえ、特に予定もありませんでしたから』
『どうぞ座ってください』
『失礼します』

森が柿崎を隣へ促した。
女性の隣に座るなら一番無害そうな森が適任だろうとこの配置になっている。

柿崎はいわゆるコンサバ系スタイルでふわふわしていて清潔感の漂う女性だった。

館林は森のように探偵を装って柿崎を呼び出すことに成功したと言っていた。
念のため森お手製の例の名刺を差し出す。
森はわざわざ俺らの分まで作ってきたのだ。

『それで私に聞きたいことってなんですか?』
『植野菜摘さんの件でお呼び立てしました』
『はぁ』
『植野菜摘さんとはご友人関係だったのは間違いありませんか?』
『はい』
『学校では一番仲が良かったんですよね?』
『まあ、私はそう思ってますけど』
『柿崎さん、本当にそうなんですか?』
『なにが言いたいんです?』
『植野菜摘が失踪する直前にショー用のデザイン画と衣装が盗まれたのご存知ですよね?』

柿崎が驚いたような顔をした気がした。

『…知りませんでした』
『そうか、では単刀直入に言います』
『なんでしょう』
『植野菜摘のデザイン画と衣装を盗んだのはあなたですね』
『……!』
『あなたが植野さんのを盗んだ』
『……どうして私が?』
『それをあなたの口から聞きたいんですよ』
『私がそんなことするはずないじゃないですか』
『どうして?』
『菜摘の親友だからです』
『でもおかしいなぁ』
『なにがです?』
『あなたが8月18日前後に植野さんのデザイン画と衣装を持ち出すところを見たっていう証言があるんだよ』
『……!』

明らかに柿崎は動揺しているようだった。

『それって……ほんとに私なの?見間違いじゃないんですか』
『あなたと植野さんの隣のクラスの松本さん覚えてますか?』
『……』
『あなた盗み出すときに松本さんとぶつかりましたよね?』
『……』
『分かった。じゃあ、松本さんと警察に行きますよ』
『……は?』
『デザイン画と衣装が盗まれてすぐに失踪するなんておかしいからな。警察で証言してくる』

館林が立ち上り森も立ち上がったのを見て俺も立ち上がろうとする。

『待って!分かった!話すから!』

柿崎は慌てた様子で俺たちを引き留める。
やっぱりみんな警察は怖いんだな。