"とにかく8月21日に隣駅で殺人事件が起きることは分かった"

"良かった、じゃあ行かないんだな"

"だとしても私は殺人事件と関係あるの?"

"分からない"

"つまり被害者は私じゃないってこと?"

"そうだ"

"良かった"

"自分だと思ってたのか"

"だってあんなに止めるから普通そう思うでしょ"

"確かに。被害者は菜摘と同い年の女子大生だよ"

"そうなんだ…でもどうして?さっき分からないって言ったってことは私は事件に関わってるって事だよね?"

失踪のことを伝えるべきか悩んだ。
言いたくない気持ちが圧倒的に強かったが、俺は覚悟を決めた。

"いなくなるんだ"

"誰が?"

"正確な日時は分かっていないが、おそらく21日の夜に君は失踪する"

"どういうこと?"

"分からない"

"誘拐?"

"違うと思う"

"そっか、だから会いに行かないんだ"

胸が締め付けられるようだった。

"でも事情があって来られないだけでどこかで身を隠しているのかも"

"死んでるかもね"

俺も実際はそう思っていた。
森だって館林だって、菜摘が生きているなんて思っていないだろう。
だから敢えて誰もそれを口にしてこなかった。
改めて「死」という言葉を突きつけられて胸の奥から何かが込み上げてきて吐き気がした。

"ねえ、未来って変えられるのかな"

"え?"

"そっちで私は既に失踪したんでしょ"

"ああ"

"決まってる未来は変えることは出来ないのかな"

"出来るよ"

"ほんと?"

"今菜摘とずっと一緒にいる方法を探してる"

"そっか"

"だから菜摘も用心してほしい"

"分かった"

"何かあったらすぐに知らせてくれ"

"うん"

"こっちも何か分かったら知らせるから"

"ありがと"