さすがに水だけ飲んで出るのもはばかられたので雑誌のコーナーへ向かう。
動物、グルメ、占い、ファッション……事件。
そうだ、あの雑誌……
不意に前回来たときのことを思い出した。

なにか嫌な胸騒ぎがしてもう一度確認しなければならない気がした。
雑誌を見つけると適当な席に座り、慌ててページをめくる。

あった。
18歳少女失踪事件―――

18歳……

服飾の専門学校に通う植野菜摘さん(18)が……

菜摘……?
いや、そんなまさか……

目線の入った笑顔の女の子の写真を見る。
どことなく見覚えのあるような……

夢の中で見た同じ間取りの部屋で生活する女の子の顔が頭をよぎる。
この写真の女の子に雰囲気が似ている気がした。

しかしあの夢の女の子がナツミとは限らない。
雑誌を急いで戻すと冷房で冷えすぎた身体をさすりながら家まで走った。

"遅かったじゃん"

家までの道のりの記憶が無かった。
でもただただ走っただけで特になにもしてないんだと思う。

"ごめん、寄り道してて"

"どこに?"

"図書館"

"なんで図書館?"

"喉乾いちゃって"

"なにそれ"

"冷水機あるだろ"

"あるかも"

ナツミに聞きたいことがあった。
でもやっぱり聞きたくないかもしれない。
俺は迷っていた。

"お昼なに食べたの?"

"オムライス"

"そんなのあった?"

"あったよ"

"気づかなかった"

"ナツミは何食べた?"

"鯖味噌定食"

"なんだよそれ"

どうやら違う店に入っていたようだ。
それじゃあ呼び掛けても聞こえるわけがない。
外ではそもそも聞こえないが。

"池すごかったね"

"見てたのか"

"約束したじゃん"

"お喋りは出来なかったぞ"

"私は話しかけてたよ"

"俺も"

"うそ"

"ほんと"

中々言い出せない。
このまま言わなくても良いんじゃないだろうか。

"ちゃんと見たかったな"

"え?"

"どんな顔して真っ赤な池を見てたのか"

"うん"

"見たかった"

"そうだな"

"なんてね"

"なんだよ"

嬉しかった。
ナツミも同じ気持ちだったのか。
やっぱりダメだ。このままじゃ。

"あのさ"

"なに?"

"ナツミはウエノナツミ?"

少し間が空いてからトン…トンと返事がきた。

"なんで知ってるの?"

目の前が真っ暗になった。
違うと言ってほしかった。
ナツミは6年前に失踪している。

こうやって18歳のまま話が出来ているということはナツミは……