トン…トン………

きた。
他に人が居ても来るのは意外だった。
毎度のことながら目の前に何かいたらどうしようとか、部屋の隅に誰か立ってたらどうしようとかありもしない不安と戦いながらゆっくり目を開ける。
良かった。目の前には天井が見えるだけ。

ゆっくり周囲を見回すが変化はない。
隣からもすーすーと森の寝息が聞こえていた。

トン…トン……シュッ…

日中森に指摘されたことを思い出し身震いした。
本当だ。確かに物凄い近くで何かを擦る音が聞こえる。

念のためいつものように家中を調べて周る。
その間も音は後ろから着いてくるような気配を感じて何度も振り返ってしまったが特に何もない。

あちこち戸棚を開けたり閉めたり、トイレに風呂場、玄関の外も確認したが人も怪しいものも何も見つからなかった。

トン…トン…

くそ、何なんだよ。
不気味な音がつきまとう。

トン…トン…

リビングに戻ると森がトン…トンとテーブルを叩いていた。

『お前かよ!』
『しっ!』
『な…』

森に静かにするように言われ大人しく無言で隣に座った。
勝手に俺のノートとペンを引っ張り出したようでメモを取りながらテーブルを叩いたり擦ったりしていた。

しばらくその様子を眺めていた。
森はトンとトンとテーブルを叩いた後、自分が鳴らした音以外の音が聞こえると指を止めメモを取る。
そして少し考えた後、また指で音を鳴らしその繰り返しだった。

いつまでこうしていただろうか。
外は少し明るくなってきていた。

ついに森がペンを置いた。
そしてトントンと何回か叩いたら、同じリズムの音がどこからか聞こえてきた。

『ふぅー』
『終わったのか…!』
『はい』

森はニヤリとやりきったような思わせ振りな表情を浮かべていた。