デザートも食べ終わる頃、コックコート姿の惟人がやって来た。

「初めまして。碧惟の父です」

「初めまして! 河合梓と申します」

 翠もスラリとした女性だが、惟人も背が高い。碧惟の華やかな顔立ちは翠譲りだが、骨格は惟人に似ているとよく言われる。

「すみません、どうにも抜ける暇がなくて。お話しできる時間が取れずに、申し訳ない」

「いえ、お忙しい中、ありがとうございます。お料理、本当においしかったです」

 二人で頭を下げあって、しどろもどろしている。

 話し上手の翠と違い、惟人からは職人気質なのだ。碧惟の性格は、惟人に近いのかもしれない。

「せっかくだから、写真を撮らない?」

「せっかくって、何の記念だ?」

「惟人さんの総料理長就任記念に決まってるじゃない。お祝いのパーティをするのが嫌だというから、この食事会にしたのよ」

「自分が主役だというのは、どうもね。君のパーティだったら、いくらでも手伝うけれど」

「わかってる。だから、勝手に食べに来たわ」

 惟人がスタッフを一人連れてきて、写真を撮ってもらった。4人の集合写真だ。

「今度は、ぜひ自宅に遊びにいらしてください」

 梓に言い残して、惟人は慌ただしく仕事に戻っていった。

「本当にそうね。惟人さんがゆっくり話せるときに、来てちょうだいね」

「はい」

 両親とも梓によくしてくれて、ホッとした。

 けれども、どうにも拭いきれない違和感がある。

「父さんと母さんって、こんなに仲良かったっけ」

「あらやだ。わたしたち、仲が悪いと思われてたの?」

「いや……二人とも仕事ばかりで、あまり話しているところも見たことなかったから」

 バツの悪い碧惟に、翠は苦笑した。

「そうね……夫婦って長い時間を過ごすから、いろんなときもあった。わたしたち、二人揃って仕事が大事だったから。あなたには寂しい思いをさせたかなって思うときもあったけど、あなたも料理の道に入ってくれて、うれしいわ。そして、こんなに素敵な女性を見つけてくれたこともね」

 碧惟は黙ってうなずいた。

(長い人生、いろんなときもある)

 碧惟だって、イタリアに行ったり、祖父の看護をしたり、翠のもとで働き始めたり、独り立ちしたりといろいろあった。

 梓も、婚約をしたり、それがなくなったりして、今は碧惟の横にいてくれている。

 テーブルの下で梓を探し、手をギュッと握る。梓が笑顔を向けてくれるのを見て、どうにも安心するのを感じた。