「河合さん。もし、手が空いていたら、生徒さんが終わらなかった洗いものをしてあげて」

「はい!」

 恭平に促されて、仕事に戻る。

 全員が食事をし始めたところで、再び二人が前に立った。話すのは、恭平だ。

「さあ、今日はどうでしたか? みなさん、おいしくできたようですね。ぜひ、家でも作ってみてください。碧惟先生、次回は?」

「オレッキエッティというショートパスタを使います。旬のブロッコリーと合わせていきますから、楽しみにしていてください」

「では、本日はこれで終了です。お疲れさまでした」

 ありがとうございましたと生徒からも声が上がり、解散となった。食べ終わり、片づけが終わった人から帰っていく。

 恭平がうまくあしらうからか、長居する生徒はおらず、2時間の料理教室は、あっという間に終わった。

 といっても、講師陣の仕事は終わらない。

 生徒が片づけた調理用具を確認し、まな板などは風通しの良い場所に乾す。調理台やシンクを磨き上げ、ゴミを片づける。

「お疲れ様。疲れたでしょう」

 見よう見まねで梓も手伝っていると、恭平が声をかけてくれた。普段のアルバイトが終わった後に、さらに慣れない仕事をしたことで、正直くたくただ。

 それでも、手伝うと決めたのは梓だ。どうにか笑顔を浮かべて恭平に尋ねた。

「大丈夫です。あとは、何をすれば?」

「残りは、明日の用意と発注と……」

「もういいから、おまえは帰れ。嫁が待ってるだろ」

 指折り数える恭平に、碧惟が割り込んだ。

「ご結婚されているんですか?」

「まだだよ。婚約者と一緒に住んでいるんだ」

 幸せそうににやけた恭平に、碧惟がボソリと呟く。

「俺を捨てて出て行ったくせに」

「誤解を招く言い方だな」

「え? まさか、朝呼んでいた『きょう』って、恭平さんのことですか!?」

「はぁ? そんなこと言ってない」

「言ってましたぁ」

 恭平が、たまらず吹き出す。

「ありえる。こいつ、本当に寝起きが悪いから、注意して。何かあったら、俺に連絡してくれていいから」

「ありがとうございます。あの……先生とは、長いお付き合いなんですか?」

 こいつと気軽に呼んでいるし、料理家とアシスタントというより、友人同士のようだ。

「腐れ縁かな。小学校から高校まで一緒だったから。俺が前の仕事を辞めたのを機に、碧惟の手伝いを始めたんだ」

「それで仲良しなんですね」

「おい、恭平。余計なこと言うんじゃない」

「はいはい」

 憮然とする碧惟に反し、恭平は気にした様子もない。

「恭平先生」

 梓がそう呼びかけると、にこりと笑った恭平と、なぜか不機嫌そうな碧惟がものすごい勢いで振り返った。

「恭平、先生……?」