「こんばんは。では、始めていきましょう」
「こんばんは。今晩もアシスタントを務めさせていただきます戸田恭平です。今日は、少し暖かくて、春めいてきましたね。本日の献立は、茄子と色とりどりの野菜のカポナータ、オレンジのサラダ、ファルソマグロ。シチリア料理をアレンジしたレシピです」
二言で終わらせた碧惟に対し、恭平が説明する。
「今日は、臨時のアシスタントとして、河合さんに入ってもらっています」
「河合です。よろしくお願いいたします」
梓は慌てて、お辞儀をした。
「質問などは、いつものように先生か僕にしてください。では、さっそくですが、手順についてご説明します」
二人は調理台の裏に回ると、ホワイトボードに書いてある手順を説明し始めた。その後、碧惟のデモンストレーション、生徒の調理という順番に進んでいく。説明は恭平が済ませることが多かったが、デモとなると碧惟も口を開いた。
「オレンジのサラダは、シチリアの伝統料理です。本場では一房分、そのまま入れていることも多いけど、今日は薄切りにしていきましょう。厚さはこれくらい。食感を考えると、薄すぎてもよくありません」
梓も目を凝らすが、生徒が壁のように調理台を囲っていて、ほとんど何も見えなかった。
「河合さん、洗い物を頼んでもいいかな?」
「はい、もちろんです」
そうこうしているうちに恭平に頼まれ、スタジオの隅で次々に運ばれてくる調理用具を洗っているうちに、デモは終わってしまった。
生徒の調理時間になると、碧惟と恭平が生徒の様子を見守り、直接指導する。
(なんだか難しそう)
教室が始まる前、今日は簡単なレシピだから気が軽いと恭平が話していたが、梓にはとてもそうは見えない。教室自体、中級以上を対象としているからだろう。
生徒の包丁さばきも、危なっかしさとは無縁だ。当然ながら、キャベツの千切りでつまずくような生徒はいないのだろう。みな手際よく進めていく。
洗った調理用具を片付けながら、梓は料理教室を見守った。
「先生、見ていただけません?」
「よく掻き混ぜて。もう少し。まだまだ……手を止めて。一度確認しましょう」
正直、始まる前までは碧惟に会うの目当てに来ている生徒もいるに違いないと、穿った見方をしていた。
しかし、生徒はみな真剣だ。無駄話もせず、一所懸命に取り組んでいる。碧惟も恭平も、それによく応えているようだった。
適度な緊張感が緩んだのは、料理ができ上がってからだ。
「さあ、冷めないうちに、でき上がった人から食べてください」
恭平が紅茶を配り、生徒はそそくさと席に着いた。
「いただきます!」
「おいしい!」
碧惟の作った手本には及ばないようだが、みな良くできている。
(おいしそう!)
思わず、梓も物欲しそうに見てしまった。
「こんばんは。今晩もアシスタントを務めさせていただきます戸田恭平です。今日は、少し暖かくて、春めいてきましたね。本日の献立は、茄子と色とりどりの野菜のカポナータ、オレンジのサラダ、ファルソマグロ。シチリア料理をアレンジしたレシピです」
二言で終わらせた碧惟に対し、恭平が説明する。
「今日は、臨時のアシスタントとして、河合さんに入ってもらっています」
「河合です。よろしくお願いいたします」
梓は慌てて、お辞儀をした。
「質問などは、いつものように先生か僕にしてください。では、さっそくですが、手順についてご説明します」
二人は調理台の裏に回ると、ホワイトボードに書いてある手順を説明し始めた。その後、碧惟のデモンストレーション、生徒の調理という順番に進んでいく。説明は恭平が済ませることが多かったが、デモとなると碧惟も口を開いた。
「オレンジのサラダは、シチリアの伝統料理です。本場では一房分、そのまま入れていることも多いけど、今日は薄切りにしていきましょう。厚さはこれくらい。食感を考えると、薄すぎてもよくありません」
梓も目を凝らすが、生徒が壁のように調理台を囲っていて、ほとんど何も見えなかった。
「河合さん、洗い物を頼んでもいいかな?」
「はい、もちろんです」
そうこうしているうちに恭平に頼まれ、スタジオの隅で次々に運ばれてくる調理用具を洗っているうちに、デモは終わってしまった。
生徒の調理時間になると、碧惟と恭平が生徒の様子を見守り、直接指導する。
(なんだか難しそう)
教室が始まる前、今日は簡単なレシピだから気が軽いと恭平が話していたが、梓にはとてもそうは見えない。教室自体、中級以上を対象としているからだろう。
生徒の包丁さばきも、危なっかしさとは無縁だ。当然ながら、キャベツの千切りでつまずくような生徒はいないのだろう。みな手際よく進めていく。
洗った調理用具を片付けながら、梓は料理教室を見守った。
「先生、見ていただけません?」
「よく掻き混ぜて。もう少し。まだまだ……手を止めて。一度確認しましょう」
正直、始まる前までは碧惟に会うの目当てに来ている生徒もいるに違いないと、穿った見方をしていた。
しかし、生徒はみな真剣だ。無駄話もせず、一所懸命に取り組んでいる。碧惟も恭平も、それによく応えているようだった。
適度な緊張感が緩んだのは、料理ができ上がってからだ。
「さあ、冷めないうちに、でき上がった人から食べてください」
恭平が紅茶を配り、生徒はそそくさと席に着いた。
「いただきます!」
「おいしい!」
碧惟の作った手本には及ばないようだが、みな良くできている。
(おいしそう!)
思わず、梓も物欲しそうに見てしまった。



