夕焼けに赤く染まったリノリウムの廊下を進んでいく。
このときだけは、病院独特の冷たさが多少やわらぐ気がする。

「えっ」

思わず声を出していた。
そこに居たのは美緒だった。

彼女は一人椅子に座り、肩を震わせ泣いていた。
いつもクラスメートとはしゃいでいるイメージしか無かったから、とても驚いた。

俺に気づいた彼女が、スッと顔を上げた。

「…拓海、くん?」

彼女の目は真っ赤で、腫れていた。

「美緒、どうしたんだよ」

だってそうだ。
いつも友達と喋って、笑って。
悲しい事なんて一つも無さそうな彼女が、泣いているのだ。

「ちょっとね、悲しい事があってね」

無理に笑顔を作ろうとする。
それが余計に、俺を戸惑わせる。
『助けてやりたい』と思った。

「俺で良ければ、話聞くよ」
言ってやると、
「ありがとう」
彼女はそう言って、また目に涙を浮かべた。