「……っ、ふっ」
こんなにも初々しくなるなんて、
ずっと、心を捨てていたから?
馬鹿みたいに、ハマりそう。
「…っ、っ……ぁ……」
後頭部に手を這わせ、
腰もしっかりと腕を回す。
彼女に触れていないと不安な自分が、
怯えるように、顔を出す。
ただ、奪うだけ。
そんな時間が、しばらく続いた。
「……ひ、陽向……」
でも、それが流石に十五分ほど続くと、莉華の方からギブアップ。
「あれ?もう無理??」
「ん、思った以上に、体力が落ちてた……」
「まぁ、だろうね」
十六年間、莉華が自ら歩くことは無かった。
リハビリの手伝いはしていたけど、それでも、空想の中にいる彼女は自らの意思でどこかに向かうという発想が消え失せていたから、仕方ないことだったといえば、仕方がなかったこと。
「たまに歩いていたから、全く歩けないってことは無いんじゃない?」
「そうなの……?」
空想の世界に逃げ込んでいた人間は、その間の記憶を覚えているか、覚えていないか、二手に別れるらしい。
莉華の場合は、地味に覚えているパターン。


