「覚えてるよね?……俺が刺されたこと」
「……っ、ぅ、ん」
「莉華はそれからが、思い出せない?」
「……ずっと、陽向に会ってたことは覚える……」
「うん。逢いに来てた。君に覚えて貰えるように」
膝の上で眠ってしまった、ふたり。
莉華に手を広げるように行って、彼女の腕の中に眠りに落ちそうな相馬を渡す。
「可愛いでしょ?」
「……っ、うん」
「その子、春馬の次男だよ」
「……えっ?」
「色んなことがあったんだ。本当に、色んなことが……話したいことが、たくさん……っ」
「陽向……」
「お願いだから……」
情けないよね。分かってる。
でも、君を失ったら、生きていける気がしないよ。
言葉を切って、優しく、相馬と依の頭を撫でてやる。
頬には変わらず、涙が伝ってた。
でも、君にはわからないだろうね。
どうして、俺がこんなになっているのかとか。
二人に、術をかける。
すっ、と、眠りの世界に落ちた二人。
すやすやと寝息を立てる依と相馬を隣のベットに横たえて、俺は莉華に近付いた。
「お願いだから……何?」
莉華は、待ってくれる。
四十路の男が泣くなんて、本当に情けない。
「お願いだから……離れるなんて言わないで……」
でも、伝えずにはいられない。
君は、現実を知るために戻ってきてくれたって、信じてもいいよね?


