「ひなくん……」
「っ……」
依の不安げな声が聞こえる。
ごめんな、ごめん。
大丈夫。
きっと、大丈夫。
「―もしもし、陽希?」
魅雨が、背後で電話をかけている。
今頃、家はどんなふうになっているだろう?
「ひなくん……」
「ひ、陽向?なんで……なんで、そんなに……」
「―気が付いたんですか!莉華さん!!」
バタバタとした、騒がしい足音。
駆け込んできた、倉津医師。
「先生……」
倉津医師のことは、分かるのか。
腕を緩めると、莉華は身を乗り出して。
俺はそっと、端に寄る。
「あのっ、今、何年経ったんですか……」
言いにくそうに、聞きにくそうに、それでも、倉津医師は
「落ち着いて、聞いてくれな」
脈を測りながらも、答える。
「君が、正気を失ってから……十六年」
「じゅ、う、ろく……?」
「君は今、四十三歳だ」
長い、長い、眠りから覚めた。
そして、残るのは色んな不安。
「……十六年間、陽向は私の、、そば、に?」
君の瞳に浮かぶのは、罪悪感。
倉津医師は、無言で頷く。
「……身体に異常はない。ゆっくり、話しなさい」と。


