「……陽向?」
「……」
「ごめんね」
「……」
「怒ってるよね」
「……」
「ごめん……」
謝らなくて、良いんだよ。
そう言ってあげたいのに、まるで、身体が死んだように。
「ごめんっ」
泣かないで。
君を泣かせるために、こんなことをしてきたわけじゃないんだから。
「莉華……」
手を伸ばして、抱き締める。
君が離れている間、色んなことがあったよ。
いっぱい、俺は悩んだよ。
悩みなんて知らなかったのに。
背中に手を回して、掻き抱いた。
きつく抱きしめると、莉華もそれに応えてくれる。
暖かな手が、自らの背中を這う。
それだけ、たった、それだけ。
それだけなのに、こんなにも……こんなにも、狂おしくて、愛しさなんて消えてなくて。
『死んでからも、会いたいと思える女に会えたって、かなり幸せ者でしょう?俺』
耳元で蘇る、久貴の声。
お前はもう、沙織に会えたか?
最愛の人を、こんなふうに抱きしめたか?
抱きしめることが、出来たか?
「莉華っ」
―ああ、生きている。
莉華はまだ、生きている。
苦しかった毎日でも、
傷がまだ疼いていても、
君がいたから、
君を信じることが出来たから、
俺はきっと―……きっと。
「陽向……お父さんに、なれたの……」
「……っっ、」
抱きしめることしか出来なくて。
声が声にならなくて。
涙が自分でも驚く程に溢れて。
「ありがとう……ずっと、私を待っててくれて……ごめんね、ごめん……陽向の人生を、縛り続けて、本当に……」
謝らないで。
俺が父親になったのなら、君も母親になったってことだから。


