久貴が初めて、助けられなかった人。


―それが、最愛の人。


その後も縁談を持ちかけられたり、モテるのは変わらないらしいけど、彼自身、それを拒絶している。


『俺、妻一筋なんで』


その一言は、業界ではかなり有名だ。


メディアの軽率な質問で、世界中に放映されてしまったもので。


それが、また、彼の人気を高めたと言っても過言ではない。


「沙織ね、ずっと、言ってたんです。俺が医者になるの、すごく楽しみって。……結局、正式な医者としての姿は見せてやれなかったけど……願いますよ、また、あいつに会えることを」


「……」


「死んでからも、会いたいと思える女に会えたって、かなり幸せ者でしょう?俺」


―その時に笑った久貴は、とても幸せそうで。


「……そうだね、確かにそうだ」


同意していたら、莉華を思い出す。


あの出会った日が、運命の日だったのだと。


彼女が想いを伝えてくれなかったら、


すぐに諦めるんじゃなくて、まだ、想い続けていたいと願ってくれなかったら、俺はきっと、彼女自身に興味を持つことは無かったから。


一瞬一瞬がきっと奇跡で、その一瞬があるから、人は人を愛して、どうしようも無くなって。


不安でできている恋愛を、誰もがしたいと思ってしまうのは、寂しいからかもしれないね。


探しているからかも、しれないね。


運命の人ってやつを。