「……春馬が優しすぎるって言うのもあると思う。でも、やっぱり、唯一の女だからね。誰も、何も言えない。それだけ、貴重なんだよ。御園の女は」


「…………春馬さんが可哀想な気がする」


「うん。和子が何を考えているかなんて、もう、誰にもわからないよ。分かるのは……本人だけだし」


諦めているといえば、聞こえがいい。


一言で言うのなら、俺達は逃げているだけ。


弟を犠牲にして……非情だと思われるだろうか?


でも、それが事実だから。


「莉華さんを、守るんだもんね。陽向さんは」


「……」


「良いと思うよ。全力で愛して、守ってあげてよ。そうしたらきっと、彼女達は幸せでいられるんだと思う」


久貴は愛しそうに自身の薬指にある指輪を撫でて、


「見て、俺の嫁さん、変なの」


と、見せてくれる。


刻まれた、英文。


「If you are okay!(貴方なら、大丈夫!)……面白いな、お前の嫁さんは」


「でしょ?……でもね、これでも、毎日、救われてるよ。人を救えないかもしれない時、疲れた時、立てなくなった時、彼女が守ってくれているみたいで」


安心するんだ、と、彼はそれに口付ける。


久貴のあれだけ大切にしていた恋人。


俺たちと出会った年、すぐに入籍したらしいが、そんな恋人は身体が弱く、病を患っていて。


四年前、久貴が今、とても大事にしている息子と引き換えにして、彼女はこの世を去った。


まだ、23歳という若さで。