『……陽希』
『ん?』
『…………ありがとう』
目を閉じると、自然と頬を濡らす何かがあった。
『馬鹿野郎……』
陽希はそう一言言うと、優しく、頬を拭いてくれていた。
『陽希、私、何か飲み物を買ってくるね』
『あ、じゃあ、俺も一緒に』
世界のことをひとつずつ学んで、成長過程にいる魅雨は妊娠中で、少し大きくなったお腹を抱えてた。
気を利かせてか、それとも、そんな魅雨を心配してか、ついて行った久貴くん。
『喜んでたのになぁ……っ』
『……』
『莉華、魅雨の子を抱くの、楽しみにしてるって……』
『……』
『それなのに、俺が壊した』
『……』
謝っても、謝っても、償いきれない。
『愛しているのに……この気持ちだけは、嘘なんかじゃないのに……こんなことになるのなら、俺は愛さなかった方が……』
―瞬間、身体が浮いた。
そして、壁に打ち付けられて。
痛みに、顔をゆがめる。
『馬鹿がっ』
陽希はそう吐き捨てると、俺の額をデコピンして。
『お前が、そんな弱気でどうするんだ。うじうじうじうじ……俺の弟らしくねぇ』
片手で頬を挟まれて、何も言えない。
『愛しているんだったら、最期まで、その気持ちに責任もてよ。巻き込むってわかって、結婚したんだろ?だったら、ちゃんと最期まで、言葉に自信と責任は持ち合わせとけ。それが出来ねぇんだったら、人なんて愛すな。馬鹿野郎』
鈍感で、女の気持ちには気づかなくて、和子の思いに未だ気づいてすらいないくせに、俺に説教垂れて。


