『陽向、嬉しそう……何かあったの?』
気を利かせて、皆が出ていってくれた、二人っきりになった部屋の中。
全身があったかい莉華を抱きしめて、俺は珍しく、涙を流した。
『陽向、陽向……っ?』
『心配、掛けないでよ……莉華……』
『……っ、ごめんなさい』
『違う。謝らせたい訳じゃなくて……』
ありがとう、ありがとう。
ありがとう、生きていてくれて。
ありがとう、愛してくれて。
ありがとう、離れないでくれて。
『愛してる』
―あのまま、死なないでいてくれてありがとう。
君をまた、愛せる権利を僕にくれてありがとう。
言いたいことは沢山あるけれど、上手く、言葉にならなくて。
『フフッ、急にどうしたの?―私も、大好き』
幸せな、時間を。
これから、共に歩もう?
『あのね、魅雨が、妊娠、確実だって』
『っ、本当?』
めちゃくちゃな人生かもしれない。
もっと、もっと、迷惑かけるかもしれない。
それでも、君といたいんだ。
『フフッ、生まれるの、どっちかなぁ。抱っこさせてくれるって、前言ってくれたんだよ』
君といる時だけ、自分は生きていると思える。
生きていけると、思えるんだよ。
君と笑い合っている間だけ、息をつける。
これから先も、生きていこうと思えるんだ。
幸せ。
それを、君に教えてもらった。
―でも、その幸せも束の間で。
『―あんたのせいでっ!!』
突然、開いた障子。
陽希たちが出ていった方向とは、逆の。
『陽向っ!』
―一瞬の出来事。
莉華の声で、振り返った俺の胸に刺さった、ひとつの刃。
体が傾いて、莉華の布団を赤く染めて。
『あんたがいたからっ、あんたのせいでっ!!何でっ、幸せに笑うのよ!?私から全てを奪って……っ!』
違う、違う。
お前から、全てを奪ったのは、俺だろう。
どうして、莉華を責めるんだ。
やめてくれ。
彼女は、俺の―……。


