☆君との約束




「千華、ありがとうね。優しいね」


頭を撫でてやる。


涙を拭って、しゃっくりを上げる千華。


「っ、だってっ、おかしい!」


「……うん」


「おかしいよっ!」


「そうだね」


「どうしてっ、春馬兄が―……っ、陽向兄がっ、苦しまなくちゃいけないの!?」


―それは、決して、遠ざけられない絶対的悪が存在しているからだよ。


そんなこと、まだ幼い君には言わないけど。


「千華」


「っ、何?」


「今から、頑張って勉強しなさい」


「……え?」


「お兄ちゃん達が手伝ってあげるから」


幼い君は、逃げた方がいい。


不思議そうな顔をする、千華の頬を撫でる。


「17歳」


「うん……」


「4年後だね?」


「うん」


「17歳になったら、この家から逃げなさい。手伝ってあげるから……どうしようもなかったら、ね」


「……」


囚われることない。


壊してしまえ。


逃げられない、檻なんて。


逃げられるうちに。


「陽向兄、たちは……?」


「俺達は、事情が事情だから」


「そんなっ」


「陽希には魅雨や紗雨がいて、俺には莉華がいて、春馬には総一郎がいるから。でも、千華は違う。何も大切なものを持っていないでしょう?外だったら、絶対に、悪も手を伸ばせない」


「……っ、」


「電話していい。遊びにだって来ていい。だから、どうか、君は捕まらないで。―幸せになって欲しいんだよ」


額を、合わせる。


目を閉じて、涙を流して、


「うん……」


千華は頷く。