「千華、ありがとうね。優しいね」
頭を撫でてやる。
涙を拭って、しゃっくりを上げる千華。
「っ、だってっ、おかしい!」
「……うん」
「おかしいよっ!」
「そうだね」
「どうしてっ、春馬兄が―……っ、陽向兄がっ、苦しまなくちゃいけないの!?」
―それは、決して、遠ざけられない絶対的悪が存在しているからだよ。
そんなこと、まだ幼い君には言わないけど。
「千華」
「っ、何?」
「今から、頑張って勉強しなさい」
「……え?」
「お兄ちゃん達が手伝ってあげるから」
幼い君は、逃げた方がいい。
不思議そうな顔をする、千華の頬を撫でる。
「17歳」
「うん……」
「4年後だね?」
「うん」
「17歳になったら、この家から逃げなさい。手伝ってあげるから……どうしようもなかったら、ね」
「……」
囚われることない。
壊してしまえ。
逃げられない、檻なんて。
逃げられるうちに。
「陽向兄、たちは……?」
「俺達は、事情が事情だから」
「そんなっ」
「陽希には魅雨や紗雨がいて、俺には莉華がいて、春馬には総一郎がいるから。でも、千華は違う。何も大切なものを持っていないでしょう?外だったら、絶対に、悪も手を伸ばせない」
「……っ、」
「電話していい。遊びにだって来ていい。だから、どうか、君は捕まらないで。―幸せになって欲しいんだよ」
額を、合わせる。
目を閉じて、涙を流して、
「うん……」
千華は頷く。


