「この家は……どれだけ、私たちから奪うのっ?」


「千華……」


「春馬兄さんだって!どうして……」


心優しい千華は顔を覆って、涙を隠す。


―先日、問題が起きた。


高一にして、春馬に子供が生まれたのだ。


しかも、身に覚えのない子供が。


母親は、和子だった。


和子は父さんの―……陽介父さんの異母兄の娘だった。


祖父が最も愛した継妻が、陽介父さんの母。


陽介父さんの異母兄は、母親共々、祖父に愛されなかった。


祖父に嫌われていたから、その異母兄は本家から距離を取っていて、この家の敷居を跨ぐことは、全くと言ってなかった。


和子には弟がいるが、その弟ですら、この本家にはめったに近寄らず、教育だけを受けている状態で。


和子は当主であった父さんに男の子しか生まれないことを危惧した、御前の人間が強制的に連れてきた娘だった。


御園での生活を強要し、学校も勝手に取り決められ、友人関係も整理され、生活最低限は外に出ることは許してもらえず、ずっと、膝を抱えて声を殺す日々を、奴らは幼かった和子に強いた。


家族のもとに帰りたいと、そう、和子が望んでも……父さんや母さんにすら、手出しが出来ないほどに徹底的に監禁して、大切に大切に育てあげていた。


だから、壊れたのだ。