甘寵殿に現在いるのは、8人の女。
元は、10人だったのだが……"不慮の事故”で亡くなってしまった。
―表向きは。
そして、今、御前から差し向けられたこの暗殺集団は、抗えぬものを人質とされた、哀れなもの達だ。
「殺さずに、帰るぞ。気絶させれば、それでいいだろう。そして、お前は考えろ。俺が道を開けるから」
バサバサと、斬り捨てていた陽向。
すぐに手当てすれば助かるだろうが、十中八九、御前は見捨ててしまうから。
俺は、御前には通じない力で、彼らに言った。
要するに、伝心力である。
鬼のものに備わり、鬼から遠い御前には察せない。
使われているのは、御堂のものだ。
いつだって、御前は御堂を使い、我らに逆らう。
父の若い頃の事件も、それで若い御堂のものが多く亡くなり、今、御堂は衰退の一途を辿ってる。
―傷を治してやるから、直ぐに身を隠せ。人質の身は保証しよう。
御園に来てから、俺には"鬼の力”というものが目覚めた。
それは御園の血によるものであり、家の空気とリンクして目覚めたのだろうと、父は言った。
さぁ、これで、敵はいなくなった。
自分の命を捨てて、人質を救っても、人質は喜ぶことは無いだろう。
みんなが笑っているためには、みんなが生きて帰るしかないんだ。
その為に、御前を潰さなければならない。
「『―世界は救わなくていいから、大切なものだけ、ちゃんと握りしめておけ。家のために生きなくていいから、自分のために生きろ』」
敵のいなくなった暗闇を見ていると、背後でそう、陽向が呟いた。
それは、父が昔、俺らに言った言葉だった。


