昔、ある事件があったと言う。
甘寵殿で起こった、悲劇。
それらは父さんを傷つけ、壊しかけた。
そんな時、母さんは父さんを支え、愛したのだ。
どんなにダメな姿でも、生涯、愛し抜いてやると、父さんに誓ったのだ。
あの人の強さは、間違いなく、この家に必要だった。
大きな流れに、逆らえる力。
甘寵殿というものは、御園の恩恵を賜りたい家が、娘を差し出す場所のことである。
時期当主となるものに見初められ、正妻に収まれたのなら……その家は、御前によっての加護を受けられる。
まぁ、うまいことを言っているが、要するに娘を捨てていることと同義である。
何故なら、そこに入れば……命の保証はないのだから。
これまでの時代の当主も、そうであった。
当主になる前の確定されたものを、御前を始めとして、皆は"若宮”と呼ぶ。
若宮に見初められたのなら、それなりの身の安全は確保されるだろう。
けれども、今季に至っては、それはない。
現在、若宮の称号を手にしているのは陽希であり、そう呼ばれているからだ。
しかし……陽希と陽向は今、甘寵殿から妻を選ばなかった時点で、見限られようとしている。
ここで、俺達が命を落とせば、間違いなく、次の駒は春馬になる。
幼くて、逆らうことを知らない、この家で生まれ育っている春馬に、全てを賭けられるのだ。
そして、俺が帰らなかった暁には、魅雨は再び家族を失い、命も失う。
俺の命にそんなに価値をつける気は無いが、俺と陽向がいなくなることで、失うものは計り知れない。


