「意識はあったけど、記憶は曖昧で。思い出そうと思っても、どうしても、陽向が刺されたあの光景しか思い出せなくて……でも、十六年間は確かに私、逃げてたんだよ。それを、陽向を見たら、実感するって言うか……貫禄溢れて、挨拶の時のお義父さんに似てきたなぁって……昔、想像はしたことはあったけど、実際に見てみるとなんか……」
「つまり?」
「浦島太郎の気分……」
「……なるほど」
枕をぎゅっと抱きしめて、そう呟いた妻を可愛いと思わない男はいないと思う。
抱き寄せると、不思議そうに首をかしげながらも、身を寄せてくる莉華。
可愛い。食べたい。
―今は、ダメだけど。
「暫くは車椅子の生活だろうけど、家に帰ってきてくれる?」
「家って……」
「本家じゃなくて、俺のマンション。相馬や依と三人で暮らしているんだ。依が来年小学生だし、準備しないといけないものも沢山あってね……」
「ああ……小学生だとね……」
保育園に入れる時にも経験したけど、何より、手間が多い!
作るものとか、用意するものとか。
それを世の中のお母さん達は平然と、家事を片手に、または、仕事も兼用してやっているんだから、恐ろしいものである。
尊敬する。
本当に、心の奥底から。


