「でも、もう決めちゃったんだ。オレの中でさ。だから、ひとつだけ協力してよ」
「…協力?」
「高山もオレにチョコちょうだい」
「…ハイ?」
「貴重な一個になると思うんだ。オレの告白の後押しをしてよ」
「あのね…」

それって誰でも良いからチョコくれって言ってるのと同じだよ?そこまでして勝ちたいのか!
ツッコミどころは満載だ。

(でも、それだけ告白したい相手がいる…ってこと、だよね…)

そこを再認識して。何だか少し落ち込む。

「…っていうか、普通に勝てるよ。多分。私のチョコなんかあてにしなくても植草なら…」

本当にそう思ったから口にした言葉。
でも、何故か自分の胸にチクリ…と痛みが走った。

「そうかな?高山が応援してくれるなら心強いけどなっ」

そう言って植草は爽やかに笑った。



植草と別れた後、いつも通る商店街を一人歩いていた。
その時、あるものに目が留まり、ふと足を止める。
そこは小さな洋菓子屋さんだった。店の前に長テーブルを出して大々的にチョコレートを売っている。

『オレにチョコちょうだい』
『オレの告白の後押しをしてよ』

先程の植草の笑顔が思い浮かぶ。

(…何で私が…)

そう思いながらも。
植草は良い奴だし、友人として恋を応援してあげる分には良い気もする。

(でも、もし私の貰ったチョコが植草のチョコより多かったら、本当に告白しないで諦めるつもりなのかな?)

その願掛け自体どうかとは思うけれど。

(何か…それって複雑…)

気持ちとしては植草を応援してあげたい。
けれど、それは私にとって残酷な結果へ繋がることを意味する。

再び胸の奥で何かがチクリと痛んだ。

私は、この痛みが何なのか知ってる。
とうの昔に置いてきたはずの想い。
それでも、未だに消せずにいる…想い。

(何だか未練がましいな…)