「琴音を渡せ」

声が響いたのは睨み合いが始まってほどなくしてだった。

まっすぐに成夜が抱く琴葉を見つめる季龍は、琴葉に意識がないことをすぐに悟る。

すぐに連れて帰らなければ、手遅れにならなければいいが…。焦りが頭を占める。だが、それを表に出さず成夜の出方を待つ。

「琴音?」

思わず聞き返した成夜と、季龍の視線がぶつかる。

「…名前を奪ったのか」

「お前の質問に答える時間はない。さっさと琴音を返せ」

「ッ返せってのはこっちのセリフだ!!琴葉は俺の家族だ!てめぇらなんかに琴葉は渡さ…」

それ以上言葉は続かなかった。

感情的になった成夜の背後を取った奏多が成夜の首の後ろを打ったのだ。