暁がそう言ったのとほぼ同時に手を掴まれる。視線を向けなくても分かる。俺の手を掴んだのは琴音だ。

…なぁ、琴音。なんで、お前はそこまで俺を守ろうとするんだよ。俺がお前にしてやれたことなんか、ほとんどねぇだろうが…。

掴んできた手を握り返す。視線を向けた先にいる琴音は、表情のない顔でぼんやりと庭を見つめている。

「…若、琴音を外に連れ出してやってください」

「は?」

こんな状態の琴音を外に?暁の意図が分からず眉をひそめると、暁は優しい目で琴音を見つめていた。

「感情が戻らないのは、刺激がなさ過ぎるせいじゃないかって。最近そう思うんすよ。刺激が多い場所に出れば、何か変わるような気がするんです」

あくまで俺の考えだけどと付け加えた暁は俺を見ると頭を下げてくる。

「お願いします。琴音に少しだけ時間を割いてやってください」

「…んなことで頭下げてくるんじゃねぇ」

そもそも、俺がしっかり面倒を見るべきだったんだ。…暁だけの判断だったとしても、試す価値は十分にある。