―10年後―

「はい、目を開けてもいいですよ」

女性の声に従って閉じていた瞼を上げる。鏡に写った自分はまるで別人て、思わずポカンとしてしまう。

「泣いちゃダメですからね?せっかくのお化粧が崩れちゃいます」

「分かりました」

「とはいっても、奥さんは涙もろいって旦那さんがおっしゃってましたから。涙が出ちゃったらこれで目のところを押さえてくださいね」

差し出されたハンカチに思わず苦笑する。そんなことまで言わなくてもいいのに…。

ハンカチを受けとり、鏡に写った自分をもう一度見つめる。ウェディングドレスに身を包んだ自分は、やっぱり少し違和感がある。

だから和装がいいって言ったのに…。

旦那さんの希望でドレスになったものの、やっぱり不満だ。人前に出ることを考えるとため息しか出てこなかった。