「琴音。…俺の個人的な意見はな、お前は表の世界に、父親の元に帰るべきだと思う」

「…」

「お前も散々分かってるだろう。この世界は非道だ。いつ命を失ってもおかしくねぇ。むしろ、今まであんな目にあって、今五体不自由なく生活出来てんのが不思議なくらいだ」

平沢さんの言葉は重い。そして、笑って流せないほど的を射ている。

確かに今までの状況を考えると、私が今何の問題もなく生活出来ているのは、ものすごい奇跡だと思う。そして、そんな奇跡は何度も起こるなんて考えられるほど、この世界は甘くない。

今までが幸運だったんだ。そのことは忘れてはいけない。

それに、このまま裏の世界の道を選んだとしたら、私は二度とお父さんに会えなくなってしまうかもしれない。私は、ずっとお父さんの元に帰ることを目的にしていた。

今なら、その目的も簡単に果たせるだろう。…でも、それも安易に選んではいけないとそう思ってしまう。

「…平沢さんは、決めたんですか?」

「俺はこれまでと変わらねぇ。裏の世界で生き続ける」

迷いのない即答だった。

平沢さんは、最初から決めていたようにそれを口にする。

…ううん、初めから、こんな選択肢が目の前に現れても決してぶれない、強い信念のようなものがある気がした。