「負けだ負け。言われた通り、吸わねぇよ。だから、返せ」

「…吸う気満々じゃないですか」

「あぁん?吸わねぇって言ったろ」

「“怪我が治るまで”吸いませんか?」

わざと強調させると、平沢さんはしばらく黙った後に舌打ちする。やっぱり、吸う気満々じゃないですか…。

「ったく、いつからそんな気が強くなってんだ」

「…平沢さんは、私のお父さんになってくれたんじゃないですか?」

「…心配してくれんのか?いい娘じゃねぇか」

わしゃわしゃと頭を撫でられる。少し乱暴な手つきだけど、その遠慮のない手つきに娘だって言ってくれたのは嘘じゃないんだって暖かい気持ちになる。

頭を撫でていてくれた手が離れていく。平沢さんは表情を引き締め、自然と冗談の言えない空気を作っていく。そんな空気に唾をのんだ。

「琴音、さっきの答え、マジで言ってんのか?」

「…私は、使用人として連れて来られたんですよね。今だってそのことは変わってないはずです。だから、自分に選択肢があるって考えられなかったんです」