車が動き出すと、恐らく最短ルートで永塚のお屋敷に戻ってくる。

いつもと同じように門の前で止まると、季龍さんは先に車を降りていく。その顔は、もう永塚組の若頭としての顔をしていた。

「ここちゃん」

車を降りようとしたとき、信洋さんに呼び止められる。顔を向けるけど、信洋さんは前を見ているままだった。

「…若、どうだった?」

全部、知っているような言葉。

どこに行って、誰に会ってきたのか、分かっているような言葉だ。

…何て言えばいいんだろう。私が言ってもいいのかな。

口を閉ざしていると、もう一度呼ばれる。信洋さんは相変わらず前を向いていて、その表情は見えない。

「…季龍さんは、少し取り乱していました。…その後は逃げるように病院を離れました」

「……そっか。…ごめんね、変なこと聞いて。忘れて」

信洋さんは振り返らない。でも、フロントガラスに反射して僅かに見えた顔は、悲しそうに見えた。