カギを開けて中に入ると、ごく普通のシングルルームだった。

部屋の大半を埋めるベッドに腰掛けると、気が抜けたのかどっと疲れが襲ってくる。

季龍さん、どうして部屋を分けたんだろう。こんなの、私が逃げ出してもわからないのに。…そんなこと、しないって信じられてる?

でも、季龍さんは私がどうこうするか、そんなこと考えていなかったように感じる。

…季龍さん、余裕がなかったのかな。…お母さんのこと、考えてるのかな。

病室から出て行ってから、季龍さんの様子はおかしかった。

『…あれは、おふくろなんかじゃねぇ』

あの時の季龍さんの言葉がよみがえる。

…季龍さんは、暴れるお母さんを、お母さんだと認めなかった。

…ううん、認めたくなかったんだと思う。

きっと、季龍さんの中でお母さんは強い人で、あんな変わり果ててしまった姿を見て混乱してしまったのかもしれない。

「…私も、あんな風だったのかな」

霞がかった記憶がある。その中で私は、聞いたこともないような声を上げていた。

…私も、状況が違えば、季龍さんのお母さんと同じようになっていたのかな。